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小脳梗塞の患者のホームページ

めまいの診断基準化のための資料

2011年10月13日

厚生省の前庭機能異常調査研究班の診断基準には、メニエール病、良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、両側前庭機能高度低下、迷路梅毒があります。また、めまい平衡医学会からは以下の18の疾患の診断基準が提案されています。

 

 

13.椎骨脳底動脈循環不全

1.疾患概念

椎骨脳底動脈循環不全とは一過性脳虚血発作(transient ischemic attack、略して TIA)の一種であり、この発作の発現には椎骨動脈系血流量の一過性減少が原因と想定される病態を総称している(Williams and Wilson、1962)。

2.病歴からの診断
  • 1)めまいの特徴
    1. めまいの誘因 :首を回したり、体位を変えた時、起こることが多い。
    2. 性状 :回転性めまい(45%)が最も多く、浮動性めまい(25%)、眼前暗黒感(15%)もみられる。
    3. 随伴症状 :めまいと同時に、視覚障害(霧視 60%、動揺視 20%、複視 30%)、意識障害(気が遠くなる 40%、短時間の意識消失 15%)を訴えるとともに悪心・嘔吐(70%)、上肢のしびれ(50%)などが出現する。
  • 2)聴覚症状
    耳鳴・難聴の随伴は極めて少ない(5%)。
  • 3)その他の脳神経症状
    上肢のしびれ、四肢末端の知覚障害も伴うことがある。

1),2),3)を中年以後に満たせば、椎骨脳底動脈循環不全を疑う。

3.検査からの診断
  • 1)首の回転・過伸展によりめまい、失神、霧視などが出現し、眼振も出現する。
    Adson 徴候 :過呼吸し首を回転すると、橈骨動脈の拍動が消失し、上肢のしびれ、鎖骨上窩の血管雑音(bruit)が聴取される。
  • 2)神経耳科学的所見 :頸部の回転・過伸展による眼振の誘発、注視眼振、視運動性眼振、追跡眼球運動の障害など中枢性平衡障害の所見を示すことが多い。
  • 3)Doppler 法血流計により椎骨動脈血流を計測すると、病的な左右差を認め、頸動脈圧迫時に血流の増加率が減少。
  • 4)椎骨動脈写で、頸部の回転、・過伸展により走行異常(屈曲 kinking、コイル形成 coiling)、狭窄などを示し、血流の遅滞や椎骨動脈起始部の動脈硬化像がみられる。
  • 5)頸椎のX線像で椎体上面・側面の鈎状突起、骨棘などがみられる。
  • 6)時に、内頸動脈の形態異常、循環不全がみられることがある。

[診断]検査により1),2)の所見があり、3)〜6)の所見の何れかが認められると、診断の確実性が増大する。

4.鑑別診断

1)頸性めまい

頸部の障害によって起こるめまい症候群を総称しており、発現機序として、

]
  1. 椎骨動脈の一過性循環障害
  2. 頸部交感神経叢の刺激
  3. 頸反射の異常

によるものが考えられている。したがって、病態は椎骨脳底動脈循環不全症と同一、類似の病態に属しており、頸性めまいの一種と解釈される。画像診断で鑑別。

2)小脳出血

回転性めまい発作、頭痛、嘔吐が特徴的であり、四肢の麻痺、意識障害(50%)も早期に出現し、項部強直、小脳失調、眼振も出現し、CT-scan、MRI で早期に診断される。橋部出血との鑑別は難しい。

3)Wallenberg 症候群(後下小脳動脈閉塞)

回転性めまい発作で発症し、嘔吐、患側への転倒、嚥下障害、交叉性解離性知覚障害、患側の Horner 症候群などが出現する。注視時の回旋性眼振、温度性眼振の患側低下、perversion などがみられる。

4)前下小脳動脈梗塞

回転性めまい発作で発症し、難聴、耳鳴、顔面神経麻痺、協同運動障害などの小脳症状もみられ、解離性知覚障害、健側向き自発眼振、患側の温度性眼振の低下、注視麻痺などがみられる。

5)神経血管圧迫症候群(neurovascular compression syndrome)

5〜6分以内の短い回転性めまいが頭位変換に関係なく頻発。

5.病期の判定

病期の進行とともに脳神経症状の出現が多くなる。発作の反復により最終的には脳幹、小脳、後頭葉、側頭葉に梗塞を生ずる例(5年以内に 35%位)もみられる。

6.予後判定の条件

頸部回転、過伸展によるめまい・平衡障害の出現と他の脳神経症状(複視、失神など)を参考にする。脳梗塞例の 80%は7〜8カ月前に椎骨脳底動脈循環不全を経験しており、発作後の再発、間隔に注意し、画像診断(血管写、CT)による原病巣の検索が必要。

7.疾患についての説明

椎骨脳底動脈循環不全とは脳梗塞を伴わない椎骨動脈系の一過性の血流減少が原因と想定される病態であり、めまい発作に次いで、意識障害、内頸動 脈系の虚血による視覚障害(霧視、複視)、脱力発作、悪心・嘔吐などもみられる一過性(2〜15分位)の症候群である。したがって、50歳以上の高齢者 で、高血圧、高脂血症などに合併することが多く、蝸牛症状の随伴は極めて少ない。

めまい、眼振、知覚障害などの神経徴候はその持続時間により、TIA(24時間以内)、RIND(reversible ischemic neurologic deficit、24時間〜3週間)、梗塞(infarct、3週間以上)に分類され、TIA の70%は持続時間1時間以内で、通常2〜15分で発作前の状態に復する。TIA より脳梗塞に移行する例は年間5〜8%の比率にみられ、発作の反復例が多い。めまい発作は、椎骨動脈系のみならず、内頸動脈のTIA (8%)、後大脳動脈の梗塞(24%)でも起こる。

神経耳科学的検査、特に眼振検査とともに頸椎のX線、脳血管写(VAG、CAG)、CT-scan、MRI

などによる画像診断は機能検査とともに診断に不可欠である。

病態としては

  • 1)椎骨動脈屈曲症、コイル形成
  • 2)椎骨動脈の起始部圧迫によるめまいと患側上肢のしびれを伴う Powers 症候群(椎骨動脈間歇的圧迫症候)
  • 3)アテローム硬化により上肢運動に伴うめまい発作と筋力低下を来す鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome)
  • 4)頸椎の変形症に伴う椎骨動脈の圧迫によるめまい(頸性めまいの一種)

に分けられる。

頭頸部外傷後のめまいの障害部位としては、末梢迷路、中枢、頸部があり、病因としては、器質的障害、機能的障害あるいは心因性によるものが考え られるので、これらの点を考慮して診断する。もとより一元的障害より多元的障害で説明しなければならぬものの方が多い。本症には詐病によるめまいの訴えも あるので、その診断には充分慎重でなければならない。